2012/04/19

大学医学部医局とマグネット病院

  平成23年9月から、佐川典正先生の後任として、三重大学医学部産科婦人科学教室を担当させていただいております。津地区医師会の先生方におかれましては、日頃より患者さまを紹介していただき、大変お世話になっており、ありがとうございます。安の津医報への寄稿として、現在進めております、我々の医局とマグネット病院との連携について、述べさせていただきます。

大学医学部医局の弱点
  大学医学部には、医師免許取得と学位取得という、医師と医学者を育てる大きな使命があり、また大学医局は、これらの育成とともに勤務医派遣と地域医療への貢献という、もう一つの役割もあります。地域医療へ貢献するために、時には医局員にとって人気のない関連病院にも医師を派遣しなければならないという医局人事は、最近の新卒者が入局しない大きな原因となっています。したがって、医学部卒業者の大学医学部入局率は、新臨床研修医制度が開始された平成16年から、極度に減少しました。症例が多く、指導医の充実した、いわゆる求心力のある「マグネット病院」で研修しようと、優先的にマッチング施設として選ぶわけです。しかし、私は国立循環器病研究センターの部長をしていた経験から、「マグネット病院」にも、「スタッフ医師の定着力の弱さ」という大きなウイークポイントがあり、これからは、大学医局の再評価の時代がくると考えております。本寄稿では、大学医局とマグネット病院に関して私見を述べ、今後はこの2つの有機的な協力が必要であり、三重大学産科婦人科学教室でも、このような協力を進めていくべきであると思います。

マグネットホスピタルの弱点
  私は6年間、国立循環器病研究センターという高度専門医療施設、いわゆるナショナルセンターの、周産期・婦人科部の部長として勤務しました。平成22年に独立法人化となりましたが、それまでは厚生労働省直属の専門施設でした。心臓病をはじめとする循環器病合併妊娠、出産を年間100例以上、胎児心臓病を年間約40例以上扱うなど、全国的にみても特色のある施設です。これらの臨床症例をまとめ、発表してきました。また基礎的研究を行うレベルの高い研究所も併設されていますので、臨床と研究を十分行うことができました。これらの実績から、研究費は、比較的順調にいただくことができ、全国からこの分野に興味のある産婦人科医を多く集めることができました。いわゆる最近の言葉では「マグネット病院」と呼んでも良い状態となりました。しかし、部長として最も頭を痛めたことは、常に医師を集めてくる努力をしなければ続かない、という不安です。興味のある医師は国循に来てくれるのですが、一定期間がすぎると、出身大学に帰って行ってしまいます。優秀な医師ほど、大学医局の吸引力が強い傾向にあります。大学医学部のように医学生時代から医師を育てることができないという大きなハンディキャップがあると思いますが、また、大学医局が持っている、学位取得と関連病院への就職先確保という2つの機能が無いために起こる、スタッフ医師の定着能力の弱さが大きな悩みでした。
  ある先生から、国循は「道場」だといわれました。すなわち、何々藩からの藩士が、剣術を上達するための最適な場所なのですが、剣術がうまくなったら、「藩」に帰ってしまいます。したがって、「道場」がはやるためには、弟子をとりつづける努力がいるのです。「道場」に優秀な先生がいなくなり、他に同種類の道場ができてしまえば、存亡の危機に直面します。

大学医学部医局とマグネットホスピタルの協力
  大学の医局とマグネット病院が、従前の医局‐関連病院とは違う形で協力し、弱点を補え合えば、単発のマグネット病院よりもバラエティに富んだキャリア形成環境が実現でき、スケールアップが図ることができると思います。特に三重県は、愛知県や大阪府などという大都会と隣接しており、三重大学医学部の新卒者は、名古屋と大阪の病院を中心に新臨床研修医制度のマッチングを選ぶ傾向が多いように見受けられます。そこで、名古屋や大阪の「マグネット病院」と連携することで、われわれの産科婦人科学教室の発展を図ることは理にかなったことだと考えています。
  すなわち、「マグネット病院」の弱点である、スタッフ医師の定着力不足、学位取得ができず、就職病院が無いことを補い、大学医局の弱点である、固定した医師派遣のあり方を補うというものです。

関連病院と連携病院
  三重大学医学部産科婦人科学教室では、本年から、我々の医局から部長を派遣している病院を関連病院(affiliated hospital)とし、診療のトップは、他大学や我々の医局からではない医師によって運営されている病院で、医局員を派遣している病院を連携病院(cooperative hospital)として、病院協力の枠を拡大しました。そして、後者として、全国のマグネットホスピタルと有効な協力を進めていくことを新たな目標としております。これは、三重県のみでなく、多くの先端技術や特殊技術を持ったマグネットホスピタルにおいて研修したいと希望する、若い医師のニーズに答えるためです。したがって、三重大学医学部産科婦人科学教室に入局したのち、連携病院において研修するという新しいキャリアパスが開けてきました。全国の、産婦人科を目指す、若い医学生、初期研修医の皆さん、ぜひお問い合わせください。

最後に
  我々の教室のモットーの一つに、地域(community)を最も優先することがあります。
  津で信用されなければ三重県で信用されません。三重県で信用を得なければ日本で信用を得ることは不可能です。津地区医師会の皆様に信用していただけるよう、教室運営を行って参る所存ですので、ご指導の程よろしくお願いいたします。