2014/02/26

ゴルフというスポーツも「負けないこと」が大事

  先日、久富章嗣氏の「月いちゴルファーが、あっという間に、80台で上がれる法」という本を読みました。常に80台で上がるようになるには、「無謀なチャレンジャー」から脱却することが大事という本です。常に、2オン、2パットのパーゴルフを狙わずに、3オン、2パット、ないしは、2オン、3パットのボギーゴルフを目指せば、トリプルやダブルパーなどは無くなり、パーも転がり込んでくるから、80台で上がれるようになるとの内容です。
 これも、「勝つこと」よりも、「負けないこと」を優先することの大事さを言ったものだと思います。

「勝つこと」と、「負けないこと」

  「勝つこと」と「負けないこと」とは、一見似ていますが、物事に向き合う姿勢や態度は大きく違います。
   私の専門とする医療は、周産期医療といって、妊婦、胎児、乳幼児を対象に、妊娠、分娩、分娩後の母親と子供を安全に管理していく医療です。他の医療との大きな違いは、死産や母体危機などの異常がでてくる危険性をはらみながら、比較的健康で正常な経過をとる方を患者さんとしていることです。したがって、異常が起こる可能性を予見し、起こった異常を早期に発見、そして、より良い方向に母児を導くことが主眼となり、また一旦起こった異常に時間をおかずに対処する訓練が必要となります。私は、この周産期医療を30年間行っています。この経験から、抽象的な言い方ですが、新たな治療策に打って出るなどの「勝つこと」よりも、現状を耐えて「負けないこと」の方が、上手く行くことが多いように感じています。
  特に、20年以上新生児集中治療室(NICU)に勤めてきましたが、「この小さな赤ちゃんを明日まで生かすには何をしたらいいか?」すなわち「どうしたら負けないですむか」を常に考えてきました。

「双六(すごろく)の上手といひし人に」

  NICUは、1000g未満の超低出生児を代表とする未熟児や病的新生児を育てる施設ですが、この様な子供たちと向かいあったとき、私は、吉田兼好の徒然草、第百十段のこの一節をいつも思い出していました。双六の名人に勝負のコツを聞いたところ、「勝ちたいと思って打ってはいけない。負けないように打つ、すなわち、どんな手がすぐに負けてしまうかを予測し、そのような手は打たず、少しでも負けるのが遅くなるように打つのがよい」と答えたというものです。
  少しのことで悪い状態となってしまう赤ちゃんには、その子の持っている生命力を頼りに、循環、呼吸、栄養が悪くならないように、すなわち「負けないように」管理することが重要だと感じていました。そして、このことを、NICUの回診やことあるごとに、研修医や学生に言ってきました。

「9着を取らないこと」

  これは、世界選手権個人スプリント10連覇という、世界的な偉業を成し遂げた中野浩一選手の講演を聞いたときに胸に響いた言葉です。
  彼の競輪人生の中で最も誇れることは、世界選手権10連覇よりも、競輪1236走中、最下位の9着は、わずか4回しかないことであるとのことです。不利な状況でも、今持っているできる限りの努力をすることの尊さを言っていることで、「勝つこと」よりも「負けないこと」が大事であると同じだと思います。

大学生活も「負けないこと」が大事

  三重大学医学部への新入生の皆さんは、激しい受験戦争を「勝ち残って」、または「勝ち取って」きた方たちでしょう。医学部は人気学部ですので、応募者も多く、センター試験で1点でも多く得点し、面接や小論文でも人よりも良い加点を得ることが重要です。推薦入学でも、高校で推薦してもらうためには、他の同級生よりも成績などが優秀でなければなりません。しかし、一旦大学に入学し、大学生活の場では、この「勝つこと」への態度はかえって邪魔になることの方が多いように思います。
  医師や看護師として働くとき、一人で働くことはまずありません。同じ施設の医師、看護師、薬剤師、検査技師をはじめ、事務職員、補助職員、関連業者など、ほんとうに多くの方々にお世話になります。この医療職としてのトレーニングを三重大学で行うわけですから、他職種と働くトレーニングもしなければなりません。この時の姿勢としては、「負けないこと」を意識した学習が重要となってきます。