2014/05/02

池ノ上先生の考え方と言葉

  池ノ上先生は私にとりましても、人生の恩師であります。平成 3 年 1 月の教授赴任時、 私は病棟医長や産科医療担当であったこともあり、直接指導を受け、また宮崎医科大学周 産期母子医療センターをはじめ、多くの事業の立ち上げを、近くで伴に体験させていただ きました。平成 17 年に宮崎を離れ、国立循環器病センターに赴任し、さらに平成 23 年か らは三重大学産科婦人科に移りましたが、池ノ上先生が宮崎で初期にどのように為された かを直に知っている私には、ある程度の自信をもって物事に当たることができました。国 循のサマーセミナーは、ひむかセミナー、朝のカンファレンス、テレビカンファレンスな ども池ノ上先生が行われたことを、忠実に模倣してきました。
  また、先生の言葉、セリフなど、メモをとりながら、自分なりに咀嚼し、現在も指導者 として使わせていただいています。以下に、その代表的な 10 の言葉を述べたいと思います。

① 「周産期は草野球、ヒーローはいらない」
  投手や野手が専属のプロ野球とちがって、集 まった人の中で投手などを決めていく草野球に、周産期医療を例えられました。宮崎大 学の入局者は、産科、新生児、婦人科の 3 つを、かなりの年月に渡ってローテーション します。したがって、だれでも新生児蘇生はでき、基礎的な手術はできます。すべての ポジションが一応守れる医師ができ、すべての緊急時に対応できます。
② 「主治医の体力の切れ目が、患者の生命の切れ目ではいけない」
  主治医は患者家族など の対外的な説明には当たるものの、患者のすべての治療を受け持つことは不可能であり、 チーム医療体制を一般化されました。
③ 「周産期医療チームと戦闘チーム」
  現場で治療にあたるときのチーム医療の在り方を述 べられた言葉で、コマンダーを決めて対応するが、コマンダーが亡くなった場合、次の コマンダーが直ちに代わりにリーダーシップをとれるようなチームを戦闘チームに例 えられました。
④ 「搬送依頼は絶対断らない、搬送結果は直ちに搬送元に報告」
  一次施設の信頼を得るた めには、これに尽きることを知らされました。
⑤ 「最大瞬間風速をあげる人員集約」
  周産期医療は、治療の局面によって 10 人以上の多 数の人員を要します。当該施設の常勤医に加え、応援の医師が駆けつけ治療を安全に行 うことの重要性を強調した言葉です。
⑥ 「行政は後からついてくる」
  あれが無いとできない、これが無いとできないなどと言わず、現在、利用できるところから始めることが、立ち上げの最大のコツだと強調されま した。行政や病院に施設や物を要求する前に、結果を出すことの重要性です。
⑦ 「君たちはこんな難しい医療ができるようになったのだ」
  治療した新生児が亡くなった 時に言われた言葉で、ガッカリしている我々を奮い立たせていただきました。そのポジ ティブシンキングに皆がついていきました。
⑧ 「周産期は、やるか、やらないか迷ったら、やる」
  これは、何の根拠もないのですが、 クリアで、私も迷った時には、この言葉を思い出しております。 ⑨ 「朝日を拝む人あれど、夕日を拝む人はなし(串木野さのさ節)」
  人が逆境になったと きでも、常に同じように接される姿は、常に軸をぶらさない先生らしく、よくこのセリ フを言っておられました。
⑩ 「中間データをもってきなさい」
  論文や発表でも、きれいなグラフや整った図を持って いくと、このように言われました。その過程が大事であり、このことは、診療の報告で も、結果がでてからではなく、治療行為を行う前の報告の重要性です。例えば、手術が うまくいって報告するよりも、このような手術を行うという事前の報告を心がけるよう に教育されました。

   以上ですが、池ノ上先生から学んだ数々の事柄、それを象徴する言葉は、まだまだあり、 今後も、さらに多くメモができるものと思います。これからも健康に気を付けられて、ご 指導をお願いいたします。