2017/03/07

三重大学産科婦人科学講座・医局の改革


同門会の先生方には、常日頃から大変お世話になっております。本教室に赴任してから、早くも5年半が経過しました。当初目標としました①三重県で働く産婦人科医師の増加、②患者さんと医療者のための、産婦人科医療の規制緩和、③三重県全体をフィールドとした研究の促進の3つは、いまだ充分ではありませんが、まずまずの成果を得ていると思います。これも、同門会のご援助・ご協力があってのことで、感謝申し上げます。

さて、医学部における臨床講座医局の役割は、①医師の養成と生涯に渡る教育、②地域への医師派遣、③医学の発展に寄与する研究の3つでしょう。私たち三重大学産科婦人科学講座においても、この3つを充実させるために、日々努力しております。しかし、時代は常に刻々と変化しているため、われわれは先を見通した上で、ポリシー形成を行い、それに基づいて戦略を練り、医局の皆が充実した毎日を送ることを応援しなければなりません。近いところでは、新専門医制度と地域医療構想に対応する必要があります。これらに柔軟に対応するために、医局改革が必要であると考えており、以下にその内容を述べます。


1.新専門医制度と大学講座医局

平成294月から始まる予定の新専門医制度は、地域医療との関わりや日本医師会との関係の調整ができず、平成304月からに先延ばしされました。産婦人科専門医制度は、日本産科婦人科学会が主導してきた従来どおりとなりそうですが、これまでと違うところは、3年間の研修中に、専攻医が所属できる1施設の期間は最大2年間までというところです。この期間を限定されることは、極めて大きなインパクトを持っています。結論から言えば、大学講座医局の役割がこれまで以上に大きくなってくるであろうということです。これまで多くの専攻医を集めていた大学以外の「人気施設」は、少なくとも1年間は、他施設の研修を組み込まざるを得ず、多くの施設がその地域の大学病院と共同でおこなうこととなるでしょう。これまでのように、専攻医が「人気施設」で継続して働き、3年間の専門医研修の後に、その「人気施設」のスタッフをめざすことが少なくなると思います。したがって、専攻医の進路を決めるうえで、大学講座医局の役割がこれまで以上に大きくなると予想します。大学医局の最も重要な役割は、医師の教育、養成です。これは、生涯にわたるもので、最近では「キャリア支援」と呼ばれます。三重大学産婦人科学教室は、これまで以上に、専攻医教育とキャリア支援を充実させていくように努力しております。

 表1に、その具体策を挙げました。



表1.三重大学産科婦人科学教室が目指す、専攻医教育
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   各専門医(婦人科腫瘍専門医、周産期専門医、生殖医療専門医、産科婦人科内視鏡技術認定医など)が取得できる施設の充実

  ハイボリュームセンターや優良専門施設との連携

  関連施設の診療レベルアップと連携強化

  各分野の研究レベルアップ
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2.地域への医師の派遣

 三重県における唯一の医科大学である三重大学の医局は、県内の医療施設に人材を派遣することが重要な役割です。地域の住民のニーズに答えながら、地方における少ない産婦人科医の生活や、やりがいを満たしながら、派遣していくことが大切ですが、「言うは安し、行うは難し」といったところです。その解決策として、勤務時間内でも所属施設以外で勤務できるシステムを追及してきました。市立四日市病院と県立総合病院との連携制度がその一つです。(同門会会誌 第35号、「三重県立総合医療センターと市立四日市病院の産婦人科医師の協力体制について」)また、済生会松阪総合病院と厚生連松阪中央病院の連携についても、今年の三重県産婦人科医報に述べました。


3.開業医と勤務医の融合

 我々の医療職においては、 医師会には勤務医部会があるように、開業医と勤務医の枠組みを前提に、医療制度や医師の団体が成り立っています。前回の、三重県産婦人科医会報にも述べました通り、これからの産婦人科医療は、開業医と勤務医という2つの狭い枠組みでは構造的に行き詰まり、発展がないと考えております。20年前までのように、多くの分娩と妊娠中絶術があり、1個人の医院でも、採算がとれていた時代は終わりました。したがって、医師養成の場である大学医局においても、開業医の持つノウハウも習得する必要があると常日頃から考えています。以下に各地の取り組みをご紹介し、われわれの取り組みである「三重レディースクリニック」について述べます。


31.九州大学産婦人科の場合

 九州大学産婦人科医局では、加藤聖子教授にお聞きしたところ、この開業医と勤務医の融合に関して先進的な試みがされています。福岡市で開業されている権丈(けんじょう)産婦人科の権丈洋徳先生は、腹腔鏡手術を九州大学に導入することに大きな役割を果たされました。お父様と開業されてからも月曜日と金曜日の2日間、大学病院で腹腔鏡手術を行ったり、腹腔鏡外来をされています。また、九州大学で毎年行われるブタを使った研修会などの世話係をされて、アカデミックな活動も続けられています。また、同じく福岡市でフクオカバースクリニックの湯元康夫先生も、同様に九州大学病院で金曜日に超音波外来を担当されています。両先生は、「特別教員」という身分で大学勤務をされておられ、報酬は時間制になっているとのことです。大学勤務医が開業される場合、自分の専門性を生かしたアカデミシティーを保つため、大学病院・医局と有効に連携されています。

32.ひなが胃腸内科・乳腺外科の場合

 市立四日市病院の一宮院長にお聞きしたところ、四日市市にある、ひなが胃腸内科・乳腺外科の久野泰先生は、市立四日市病院に勤務されておられましたが、2009年に開業されました。その後、乳がん手術を市立四日市病院で行う傍ら、乳がん検診やご自分で手術した患者さんの術後化学療法をご自分の医院で行われています。産婦人科でいえば、妊婦健診は自分のクリニックで、分娩となれば提携した病院を使うというアメリカ式の医療でしょう。考えてみますと、産科オープンシステムもご自分の医院で妊婦健診と大学病院で分娩という同様な形式です。現在、産科オープンシステムは、三重県内でも広く利用していただいていますが、さらなる医療レベルの向上がキーとなっていくと考えます。

4.三重レディースクリニック

 勤務医側から開業医へ目を向けるために、「医局開業」を行いました。「三重レディースクリニック」は、平成29年(2017年)124日にオープンしました。この開業の最大の目的は、医師、特に女性医師の外来能力の向上です。近年の産婦人科外来診療は、日本産科婦人科学会から「産婦人科診療ガイドライン・婦人科外来編」が出版されているように、多彩となってきました。婦人科がん検診、乳がん検診、ホルモンを使った治療、子宮筋腫や子宮内膜症といった一般婦人科、不妊症、STDなど、幼年期・思春期から更年期、老年期から、女性の幅広い一生をカバーする外来です。骨粗しょう症、排尿障害、さらに高血圧、糖尿病、高脂血症なども、それぞれの専門の先生と一緒に、産婦人科医が患者さんを診ていくことが要求されるようになったと考えています。まさに、産婦人科医が「レディース」を診る時代なのですが、大学病院では、このようなプライマリーな産婦人科外来診療に対して、十分な研修が行えない状態です。診療は水曜日を除く毎日行っています。院長は大里朱里先生にお願いしており、ウイークデーの診察を担当してもらっています。ウイークデーの午後は3時半から6時半で、大学勤務のベテラン女性医師が診察しています。スタッフは、看護師2名、受付3名です。

 このように、主治医として、女性の一生をずっとサポートする役割があり、いわゆる「女性に対する総合診療医」という役割も、産婦人科医は果たすべきと考えています。今、国が構築しようとしている地域包括ケアシステムにも合致することで、一女性の主治医は、その背景にある家族もみるものであり、さらにそのコミュニティーも責任を持つということにつながると思っています。男性の患者さんが病院を訪れても、ご自分の症状など、ご本人のことしか言われないのに対し、女性の患者さんは、ご主人、嫁、孫などご自分以外の方の話題をよくされるなあ、と感じております。まさに、女性は家庭やコミュニティを担っているのです。

さらに、保険請求制度、診療費の成り立ちなど、開業医の先生方がご自分で開業なさってから学ばれることは、勤務医時代から習得する必要があると考えており、これらの業務のトレーニングにもなると考えています。



 三重レディースのもう一つの目的は、女性アスリート外来の開設です。教室の神元有紀君が中心となった女性医師たちが、この2年間、全国の障がい者アスリートの聞き取り調査を行ってくれました。この結果は、冊子にまとめましたので、またご紹介する機会があると思います。女性アスリート外来は順天堂大学病院や国立スポーツ科学センターなどに開設されていますが、夕夜診は行っていないなど、利用者にとって不便であり、多くの成果が上がっていないのが現状です。整形外科やリハビリ科と連携をとりながら、健常者と障がい者女性アスリートの健康と成績向上のため、貢献したいと思います。

5.他の医局の改革と取り組み例

51.医局の法人化:北海道大学産科婦人科教室の場合

北海道大学産婦人科医局は、2008年に医局を一般社団法人化し、WIND(女性の健康と医療を守る医師連合)を設立しました。これは、北大の産科と婦人科と関連病院がタッグを組み、市中病院を選んだ医師であっても、WINDという組織の社員としてさまざまなタイプの病院をローテートしながら研修できるプログラムです。医局員も個人社員となり、年間6万円を供出します。関連病院などの団体社員は年間60万円を出しており、年間約400万円規模の会計で運営されているとのことでした。この中から、新入医局員獲得のための費用や、各研究室への援助などが賄われます。産婦人科医の教育、地域医療への貢献、医学研究の発展という3つの機能を透明化し、企業化したものと考えられます。


52.医局の産婦人科グループへの協力:ベルネットの場合

 「ベルネット」という産婦人科診療のチェーン店的企業があります。愛知県を中心に、岐阜県に2施設、合計15施設を経営しており、分娩と不妊クリニックを主に扱っており、急速に勢力を伸ばしてきています。名古屋大学産婦人科医局が当直業務など人的にバックアップを行っており、地域の妊娠・分娩に対する産婦人科不足を軽減しています。また、一人の産婦人科医師が、多くのクリニックをローテートすることで、産婦人科医の不足を補っています。また、勤務する産婦人科医の生活の向上に一役買っています。私は、これら良い面を見習うべきと考えています。ただ、①他の大学の医局員を突然リクルートすること、②地域の看護師や医師の給料という相場を高騰させること、③地域の周産期医療システム計画が混乱するなど、良くないと思われる面もあり、今後改善されるべきと思います。

 このような北海道大学や名古屋大学の例を参考にしながら、医局員と同門の先生方のための、「医局改革」を行っていきたいと考えています。ご支援、ご協力をお願いいたします。


2017/03/02

少子化問題と地域医療構想に対して、積極的に提言していきましょう


三重県産婦人科医会の先生方には、診療や研究協力で大変お世話になっており、感謝申し上げます。2018年(平成30年)は診療報酬と介護報酬ダブル改定があり、また、地域医療構想と題した病院機能の再編や地域包括ケアシステムなどの第7次医療計画がスタートするという我が国の医療にとってターニングポイントになりうる年です。その準備として、2017年は私たち産婦人科医にとっても最も重要な年であると考えています。未曾有の少子高齢化を迎えています。今回は、われわれ産婦人科医療をより発展させるために、これら少子化問題と地域医療構想に対して積極的に提言していくべきことを述べたいと思います。



1. 母子に優しくない自治体は、人口減少が大きい

1)三重県における人口減少
平成27年(2015年)の国勢調査で三重県の人口は、5年前よりも38859人(-2.1%)減って、1815865人となりました。図2は、県内の14の市別のこの5年間の人口の増減を現したものです。熊野市(-11.9%)、尾鷲市(-10.1%)、鳥羽市(-9.3%)、志摩市(-8.0%)、松阪市(-2.5%)、伊勢市(-1.9%)という東紀州や南勢の市が軒並み減少しています。一方、桑名市(0%)、いなべ市(0.3%)、四日市市(1.1%)と北勢の市は現状維持か人口増加しています。全国的に、人口減少問題は地域において深刻であり、町や村が消滅するといったことも現実に起こっています。2020年の国勢調査までの人口減少をできるだけ少なくすることが、市町村の首長の評価の一つであるとも言われています。

図1.三重県の市における人口の増減率(平成22年から27年の5年間)



 ここで、興味深いことは、同様な地域でありながら、名張市は-1.9%と、伊賀市の-6.8%と比べて人口減少が少ないのが目につきます。名張は、日本版ネウボラなど、子育てに積極的に介入しており、母子保健への配慮ができている市という評価を得ており、この人口減少の少なさと、関係あるのではと考えています。
 
2)東日本大震災後の人口回復と母子医療
 平成2811月に、三重県母性衛生学会で、国立保健医療科学院生涯健康研究部、主任研究官の吉田穂波先生に「災害というキーワードを通じて考える本当の意味での母子保健」という題でご講演いただきました。吉田先生は、平成10年、三重大学医学部を卒業され、4人の子育てをされながら、ハーバード大学で修士を取られ、少子化や災害医療について研究されてこられた方です。
 吉田先生は、東日本大震災後、母子の被災者支援を中心にボランティア活動をされました。この時の経験から、「東日本大震災時に、母子に配慮のできた自治体は、その後の人口回復ができた一方で、配慮のない自治体は回復していない」という話をされました。これは、宮城県が県内全35市町村を対象に行った東日本大震災での被災者支援等についての調査を基にしたものです。「女性や乳幼児をもつ家庭のニーズと安全面への配慮の視点が不足している傾向にあった。」という自治体には、沿岸部に存在する女川町(37.7%減)、南三陸町(30.6%減)、山元町(26.7%減)、広野町(20.8%減)、大槌町(18.9%減)が含まれており、これらの自治体は震災5年後の国勢調査において人口が大きく減少しています。

3)産婦人科と小児科を大事にすると、人口が維持できる
 三重県と宮城県における人口減少と人口回復の問題は、母子保健や母子医療への関心と決して無関係ではないのではということを、データをもとに述べました。これからの少子化社会を逆風でなく、一種の「ビジネスチャンス」としてとらえ、小児科医と協力しながら、より積極的に情報を発信していくことが大切であると感じております。



2.松阪問題
(1)松阪地区の周産期急性期施設の集約化の必要性
 松阪医療圏は、松阪市と多気町、明和町、大台町、大紀町で構成され、人口約22万の地域です。分娩施設としては、済生会松阪総合病院と厚生連松阪中央総合病院、それから3つの個人開業医において、約1200300件を取り扱われている状況です。済生会と松阪中央にてそれぞれ、約200分娩を扱われていますが、ハイリスクを扱う機能に乏しいのが現状です。例えば、妊娠34週未満の早産時には対応できておらず、三重中央センター、伊勢日赤、三重大学病院などに搬送されることが多いです。また、常位胎盤早期剥離などが起こった場合でも、対応が他の地域と比べて充実しておらず、予後が悪くなっている例も散見されます。それにも関わらず、済生会と松阪中央では、分娩に対して夜間待機や当直など毎日行われている状態で、それぞれの5人と4人(ただし2人は非常勤)の産婦人科医は、ぎりぎりの状態で診療に当たっています。
 松阪の周産期医療の改善を図るためには、済生会か松阪中央のどちらかに分娩を集約化し、2つの病院の医師が協力して、当直や緊急事態の当たる体制がぜひ必要です。当直も年間200分娩のために、少ない人数がそれぞれの病院でおこなうよりも、1つに集約化して、計9人で行うほうがクオリティーライフも良くなるのは歴然です。さらに、集約化した施設には、少なくとも妊娠3234週以上は管理できる新生児施設があることが、急性期周産期施設として機能することが必須だと考えます。
 ただ、これには問題が多々あります。集約化されない施設における、産婦人科診療が縮小され病院機能や収益に影響することが一番です。また、勤務助産師の問題も大きいです。さらに、研修医教育にもマイナスとなります。しかし、松阪の周産期地域化のために、避けて通れない問題と考え、平成29年から取り組んでまいります。


図2.松阪医療圏と3つの急性期病院
2)松阪区域地域医療構想
 「地域医療構想」とは、「医療費2025年問題」、すなわちベビーブーマーが75歳となる2025年に国民医療費が現在の約2倍となり、国民皆保険制度では財政がパンクすることに対応するための医療改革の一つです。具体的には、各地域を2次医療圏にわけて、病床を超急性期、急性期、回復期、慢性期に区分けし、必要な病床数を調整していくこととなります。三重県内の8つの2次医療圏の中で、松阪医療圏は2015年から2025年への病床数減少目標は、全体で2,230床から1,837床と18%削減し、超急性期・急性期病床を1455床から863床と41%の削減と、他の2次医療圏とさほど減少率は変わりません。しかし、急性期を扱う3病院(松阪中央(440床)、済生会松阪(430床)、松阪市民(326床))が、近隣に位置することと(図1)、診療内容が重複する傾向があることが、他の医療圏と大きく異なっています。したがって、三重県において、「地域医療構想」の実現が最も難しい地区が松阪医療圏と言ってもよいでしょう。

(3)周産期医療病床は急性期か回復期病床か?
残念なことに、この地域医療構想において、分娩施設や新生児治療施設などの周産期医療施設のベッドが超急性期か急性期なのか、明確に規定されていません。また、議論にもあまり登場しません。未曽有の少子化である我が国で、置き忘れられている重要課題です。医療機能を評価は、現在、診療単価でなされており、超急性期ベッドは3000点以上、急性期は600点以上、回復期は225点以上としているのが一般的な指標です。したがって、正常分娩費用は40万円前後ですので、分娩施設ベッドは、急性期以上として良いと思われます。未曾有の少子化の中で、健康な国民を生み育てる産婦人科医療と小児科医療は、「医療費2025年問題」や「地域医療構想」の中で、同時に議論され、急性期病床以上の病床として扱われるか、産婦人科病床はサンクチュアリ(聖域)とされるように、皆で運動していきたいと考えております。先生方のご協力をお願いいたします。