2017/03/02

少子化問題と地域医療構想に対して、積極的に提言していきましょう


三重県産婦人科医会の先生方には、診療や研究協力で大変お世話になっており、感謝申し上げます。2018年(平成30年)は診療報酬と介護報酬ダブル改定があり、また、地域医療構想と題した病院機能の再編や地域包括ケアシステムなどの第7次医療計画がスタートするという我が国の医療にとってターニングポイントになりうる年です。その準備として、2017年は私たち産婦人科医にとっても最も重要な年であると考えています。未曾有の少子高齢化を迎えています。今回は、われわれ産婦人科医療をより発展させるために、これら少子化問題と地域医療構想に対して積極的に提言していくべきことを述べたいと思います。



1. 母子に優しくない自治体は、人口減少が大きい

1)三重県における人口減少
平成27年(2015年)の国勢調査で三重県の人口は、5年前よりも38859人(-2.1%)減って、1815865人となりました。図2は、県内の14の市別のこの5年間の人口の増減を現したものです。熊野市(-11.9%)、尾鷲市(-10.1%)、鳥羽市(-9.3%)、志摩市(-8.0%)、松阪市(-2.5%)、伊勢市(-1.9%)という東紀州や南勢の市が軒並み減少しています。一方、桑名市(0%)、いなべ市(0.3%)、四日市市(1.1%)と北勢の市は現状維持か人口増加しています。全国的に、人口減少問題は地域において深刻であり、町や村が消滅するといったことも現実に起こっています。2020年の国勢調査までの人口減少をできるだけ少なくすることが、市町村の首長の評価の一つであるとも言われています。

図1.三重県の市における人口の増減率(平成22年から27年の5年間)



 ここで、興味深いことは、同様な地域でありながら、名張市は-1.9%と、伊賀市の-6.8%と比べて人口減少が少ないのが目につきます。名張は、日本版ネウボラなど、子育てに積極的に介入しており、母子保健への配慮ができている市という評価を得ており、この人口減少の少なさと、関係あるのではと考えています。
 
2)東日本大震災後の人口回復と母子医療
 平成2811月に、三重県母性衛生学会で、国立保健医療科学院生涯健康研究部、主任研究官の吉田穂波先生に「災害というキーワードを通じて考える本当の意味での母子保健」という題でご講演いただきました。吉田先生は、平成10年、三重大学医学部を卒業され、4人の子育てをされながら、ハーバード大学で修士を取られ、少子化や災害医療について研究されてこられた方です。
 吉田先生は、東日本大震災後、母子の被災者支援を中心にボランティア活動をされました。この時の経験から、「東日本大震災時に、母子に配慮のできた自治体は、その後の人口回復ができた一方で、配慮のない自治体は回復していない」という話をされました。これは、宮城県が県内全35市町村を対象に行った東日本大震災での被災者支援等についての調査を基にしたものです。「女性や乳幼児をもつ家庭のニーズと安全面への配慮の視点が不足している傾向にあった。」という自治体には、沿岸部に存在する女川町(37.7%減)、南三陸町(30.6%減)、山元町(26.7%減)、広野町(20.8%減)、大槌町(18.9%減)が含まれており、これらの自治体は震災5年後の国勢調査において人口が大きく減少しています。

3)産婦人科と小児科を大事にすると、人口が維持できる
 三重県と宮城県における人口減少と人口回復の問題は、母子保健や母子医療への関心と決して無関係ではないのではということを、データをもとに述べました。これからの少子化社会を逆風でなく、一種の「ビジネスチャンス」としてとらえ、小児科医と協力しながら、より積極的に情報を発信していくことが大切であると感じております。



2.松阪問題
(1)松阪地区の周産期急性期施設の集約化の必要性
 松阪医療圏は、松阪市と多気町、明和町、大台町、大紀町で構成され、人口約22万の地域です。分娩施設としては、済生会松阪総合病院と厚生連松阪中央総合病院、それから3つの個人開業医において、約1200300件を取り扱われている状況です。済生会と松阪中央にてそれぞれ、約200分娩を扱われていますが、ハイリスクを扱う機能に乏しいのが現状です。例えば、妊娠34週未満の早産時には対応できておらず、三重中央センター、伊勢日赤、三重大学病院などに搬送されることが多いです。また、常位胎盤早期剥離などが起こった場合でも、対応が他の地域と比べて充実しておらず、予後が悪くなっている例も散見されます。それにも関わらず、済生会と松阪中央では、分娩に対して夜間待機や当直など毎日行われている状態で、それぞれの5人と4人(ただし2人は非常勤)の産婦人科医は、ぎりぎりの状態で診療に当たっています。
 松阪の周産期医療の改善を図るためには、済生会か松阪中央のどちらかに分娩を集約化し、2つの病院の医師が協力して、当直や緊急事態の当たる体制がぜひ必要です。当直も年間200分娩のために、少ない人数がそれぞれの病院でおこなうよりも、1つに集約化して、計9人で行うほうがクオリティーライフも良くなるのは歴然です。さらに、集約化した施設には、少なくとも妊娠3234週以上は管理できる新生児施設があることが、急性期周産期施設として機能することが必須だと考えます。
 ただ、これには問題が多々あります。集約化されない施設における、産婦人科診療が縮小され病院機能や収益に影響することが一番です。また、勤務助産師の問題も大きいです。さらに、研修医教育にもマイナスとなります。しかし、松阪の周産期地域化のために、避けて通れない問題と考え、平成29年から取り組んでまいります。


図2.松阪医療圏と3つの急性期病院
2)松阪区域地域医療構想
 「地域医療構想」とは、「医療費2025年問題」、すなわちベビーブーマーが75歳となる2025年に国民医療費が現在の約2倍となり、国民皆保険制度では財政がパンクすることに対応するための医療改革の一つです。具体的には、各地域を2次医療圏にわけて、病床を超急性期、急性期、回復期、慢性期に区分けし、必要な病床数を調整していくこととなります。三重県内の8つの2次医療圏の中で、松阪医療圏は2015年から2025年への病床数減少目標は、全体で2,230床から1,837床と18%削減し、超急性期・急性期病床を1455床から863床と41%の削減と、他の2次医療圏とさほど減少率は変わりません。しかし、急性期を扱う3病院(松阪中央(440床)、済生会松阪(430床)、松阪市民(326床))が、近隣に位置することと(図1)、診療内容が重複する傾向があることが、他の医療圏と大きく異なっています。したがって、三重県において、「地域医療構想」の実現が最も難しい地区が松阪医療圏と言ってもよいでしょう。

(3)周産期医療病床は急性期か回復期病床か?
残念なことに、この地域医療構想において、分娩施設や新生児治療施設などの周産期医療施設のベッドが超急性期か急性期なのか、明確に規定されていません。また、議論にもあまり登場しません。未曽有の少子化である我が国で、置き忘れられている重要課題です。医療機能を評価は、現在、診療単価でなされており、超急性期ベッドは3000点以上、急性期は600点以上、回復期は225点以上としているのが一般的な指標です。したがって、正常分娩費用は40万円前後ですので、分娩施設ベッドは、急性期以上として良いと思われます。未曾有の少子化の中で、健康な国民を生み育てる産婦人科医療と小児科医療は、「医療費2025年問題」や「地域医療構想」の中で、同時に議論され、急性期病床以上の病床として扱われるか、産婦人科病床はサンクチュアリ(聖域)とされるように、皆で運動していきたいと考えております。先生方のご協力をお願いいたします。