2014/03/18

産婦人科女性医師フレンドリーな三重県を目指して

  三重大学医学部産科婦人科学教室同門会の先生方には、常日頃から、患者さまのご紹介や、医局のご支援など、大変お世話になっており、感謝申し上げます。来年には、我々の教室の開講70周年となり、祈念式典などを計画いたしており、ご出席いただきますよう、お願いいたします。さて今回は、三重県における産婦人科の女性医師に関する話題を述べたいと思います。

1.女性産婦人科医師の増加
  図1は、平成22年(2010年)に国がまとめました産婦人科医の年齢階級別医師数の男女比です。30歳代前半の62.7%から、30歳代後半46.7%、40歳代前半32.6%、40歳代後半22.5%と低下しています。最近の新規産婦人科医の60%~70%が女性医師です。
  産婦人科は、女性医師が活き活きと働くことができ、キャリアを積める診療科であるため、当然の傾向でしょう。産婦人科女性医師としてのメリットは、月経異常、思春期の異常、更年期や避妊など、患者さんが男性医師には話し難い相談を受けやすいことがあります。三重県においても、開業されている女性医師は皆、たくさん患者さんが集まっていますし、大学でも女性医師の外来は朝から夕方までビッチシ、予約がいっぱいです。
  今後、産婦人科診療にとって、女性医師が増加してくることは、火を見るよりも明らかです。将来、産婦人科全体の3分の2は女性となることでしょう。これは、産婦人科医療全体の構造上の大きな変化であり、避けて通れない問題であり、われわれも女性医師のキャリア支援について、どう取り組んでいくかを皆で考えないといけないでしょう。
図1.全国の年代別産婦人科医師数
図2 三重県の年代別産婦人科医師数

2.三重県は女性の県です
  図2は、三重県の産婦人科医で同様なグラフを書いたものです(平成25 年現在)。若い世代の産婦人科医が少ないことがまず目立ちますが、40 代後半でも女性医師はほぼ50%であり、全国に比べて多いことがわかります。三重県の40 代女性が頑張っているのです。
  三重県の女性は、まじめで働き者が多い傾向にあると思います。私が長年住んでいました宮崎県の女性も働き者ですが、こちらは男性があまり働かないために必然的に働かなければならなくなったようです。一方、三重県では自分自身のキャリアを積むために働いている女性が多いように思います。それを裏付けるデータとして、夫への小遣いの金額があります。三重県は大分県とともにトップで、ひと月平均17 万円らしいです。それに比べて、宮崎県は鳥取県、島根県とともに最下位近くでひと月平均10 万円です。夫の働きが悪いと、小遣いも少なくなるのではないでしょうか?
  三重県にキャリア志向の女性が多いことは、多くの女性有名人がでていることから伺えます。レスリングの吉田沙保里、マラソンの野口みずき、ビーチバレーの浅尾美和、バドミントンの小椋久美子、アナウンサーの楠田枝里子など、皆キャリアを開花させておられます。古くは、伊勢神宮の天照大神。昨年は式年遷宮がありましたが、これを始められたのが持統天皇で女性であり、この県の女性の活躍は伝統でしょうか。
  キャリアを持つことは、独立心や自信を持つことに繋がります。最近行われた、補正下着会社ダイアナ社の調査によれば、20~60 歳の三重県女性は全国一プロポーションが良いという結果がでました。これはプロポーションインデックスというのがあって、[ウエスト+(左太もも周囲+右太もも周囲‐ヒップ-(トップバスト-アンダーバスト)]÷身長で計算され、低いほどプロポーションが良い値らしいです。
20万人以上の体型データから、三重県女性は、37.7で1位でした。2位は高知38.5、で最下位は徳島県で43.2でした。自信の表れでしょうか、三重県女性は「夫の浮気を許せない」ナンバー1であるとのことです。ケンミンまるごと大調査という3万人以上のアンケート調査によるものですが、キャリア志向で独立心、自信があり、プライドがあるという女性像が見えてきます。
  結論として、三重県女性は、産婦人科医としてのキャリアを積むための背景が十分であるということです。

 3.女性が産婦人科医を続けていく困難さと対策
  医師以外の職種でもそうですが、結婚、出産、育児は女性がキャリアを中断ないし縮小しなければならない原因となっています。産婦人科医は、夜間など時間外が多い、緊急度が高い疾患があるなど、他科と比べても、ハードな勤務であることは否めません。最近の、産婦人科医師不足の折、当直の回数などが多い、などハードさは一段と高くなり、さらに離職が多くなるという「悪循環」に陥り、女性医師にとっても、産婦人科は敬遠されることも多くみられます。
  日本産科婦人科学会の調査でも、女性医師が離職、休職する率は多いことが報告されています。これに対して、以下のような、待遇改善の施策が挙げられています。①当直勤務の緩和、②当直翌日の勤務の緩和、③分娩手当、待機手当の増額、④妊娠中・育児中の勤務の緩和、⑤フレックスや時短勤務の導入、⑥チーム医療の導入による交代性、⑦利用可能な院内保育所の設置などです。
  確かに、これらのハード面は極めて重要であり、三重大学でも幾つかを採用し、キャリアを続けるために有効であると実感しています。

4.三重県、三重大学における産婦人科女性医師フレンドリーな対策
  しかし、これらハード面のみでなく、ソフト面の充実も重要であり、産婦人科女性医師フレンドリー三重県、三重大学を目指した対策を述べていきたいと思います。結論から申しますと、いま「正解」を持ち合わせていません。ただ、原則、勤務医は子供ができたら、比較的人的余裕のある大学に集まるか、三重県の中で「ギネの女医たちネットワーク」を作って、悩みの共有と団結した主張をして頂きたいと思っています。
  昨年から、大学では神元有紀講師に人事担当の医局長になってもらいました。彼女は、2人のお子さんを育てながら、当直、外来、卒前卒後教育、研究を立派にこなしてくれています。日産婦の最優秀論文賞も受賞しました。まさに、ロールモデルであり、女性の多くなった医局の人事担当には相応しいと考えたからです。
  また、これまでの女性医師に関する議論の中で、院内保育や分娩手当などのハード面は頻繁に述べられますが、女性医師が何を行うかというソフト面はあまり語られません。もちろん、専門性に関しては、それぞれの医師の興味やモチベーションが重要ですが、育児をしながらも続けられやすいものと続けにくいものは確かにあると思います。少し、この点で考えていることを述べさせていただきます。

5.レイバリスト
  レイバリスト(laborist)とは、米国で最近新しく活用されている産婦人科医のあり方です。米国では最近90%の産婦人科医は女性であり、中には子供を持つ女性も多くいます。そのため、女性のクオリティー・オブ・ライフの改善のため、分娩だけ行う職業すなわちレイバリストという就業形態ができているのです。看護師さんのように交代性で通常の医師よりも少ない時間となるため、多くの時間が医業以外のことに使えます。最近では、レイバリストを採用した病院において、帝王切開率の減少や出産予後の改善などが報告されており、米国産婦人科学会も推奨しています。わが国も米国の10年、後を追っているのであれば、参考にしなければならないと考え、実際のレイバリストをめぐる実情を研究してきたもらうため、北野裕子先生に、全米でもトップクラスのカルフォルニア大学サンフランシスコ大学に10日間程、視察に行ってもらいました。 詳しくは、北野先生からの報告を今後参考にしてください。

6.腹腔鏡手術
  腹腔鏡手術は近年、産婦人科領域でも全国的に症例数が多くなってきており、特殊な手術というよりは、一般的な産婦人科手術になってきました。もはや、子宮外妊娠や良性卵巣腫瘍では、開腹よりも腹腔鏡手術の方が第一選択であることが常識です。まさに、手術革命です。ただし、開腹術に比べて、基礎トレーニング、すなわち運針や縫合結紮などに要する時間が長くなります。また、特殊な視野と鉗子の動きに慣れる必要があり、ラーニングカーブも、開腹術に比べてゆっくりです。一般的に、実際の症例に当たる前に、練習ボックスを使って、日夜トレーニングを積まなければなりません。この練習は、自宅でもできるため、例えば産休中とか育休中にも出来得ると思います。女性特有の繊細さをもってすれば、腹腔鏡手術は女性医師に向いているのではないでしょうか?

  以上、産婦人科女性医師に関する私見を述べてきましたが、皆さんでアイデアを出し合っていただき、良い方策を考え、トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら、一人でも充実した産婦人科のキャリアが積めるよう頑張ってもらいたいと思います。